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第八塩
   投稿者 ・ 霧衣 様   




昔、築40年近い家に住んでおりました。
それはそれはいわくつきの家で御座いまして、
霊感のある母は嫁いで参りましたときに非常に嫌なものを感じたそうです。
それもそのはず。
まだ私の父が子供の時分、
我が家の二階で人が死んでいたので御座います。


我が家は自営業、商店を営んでおります。
店の看板を新調している際に、悲劇は起こりました。
看板を取り付けている職人さんが転落なさり、
とっさに電線を掴んで感電死なさったのだそうです。

それから数年後、件の二階に自室を与えられた父は
夜な夜な妙な足音を聞くようになりました。
何せ古い家で御座いますから、階段を上りますとぎしぎしときしむ音が致します。
その音が、階下には既に誰もおらず上る者もいないというのに聞こえてきたのだそうです。

父は「空耳か?」と思ったのですが、余りにもそれが続くので友人を家に招き、
夜中を待ってその音が聞こえるかどうか試すことにしました。
そして、その音はしっかりとその晩も聞こえてきたので御座いました。

「聞いたか?」

父が尋ねると、顔面を蒼白にした友人はただ首を縦に振ってそれに答えました。
ぎしぎしと人が階段を上ってくる音は確かに、聞こえたのです。
更に、その晩はそれだけでは済みませんでした。
なんと父の部屋の前の廊下を通り過ぎ、廊下の突き当たり、
その方が転落なさった現場へと足音は続いていったので御座います。

あくる朝、父は必死に家族に訴え、塩をまいてもらったとのことです。
それ以来足音はぱたりと聞こえなくなったのですが、
職人さんの霊は成仏なさったわけではなかったのです。


十数年後、父が母と結婚し、私と妹が生まれました。
私が中学生の時に一人部屋が欲しいとねだりましたところ、
父は廊下の突き当たりに位置する部屋を宛がいました。
そう、あの職人さんが亡くなった廊下の前の部屋で御座います。
私はそんなことは聞いたこともなく、
家を建て直すまでの数年間、その部屋で過ごしました。

数年間の間に、私も足音を聞き、更には襖の隙間からこちらを見遣る人影を見ました。
人影は幼い子供でしたから、亡くなった職人さんの霊ではなかったのでしょう。
母いわく、家には数人の見えない同居人がいたそうですから、
その一人だったのではないか、と思う次第です。


因みに、家を建て替えてからは
一度もそのような同居人の方々の気配を感じたことは御座いません。
今思えば、あの家の薄暗い雰囲気が
この世の者ではない方々のお気に召したのではないでしょうか。





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